マヌエル・アグヘータ

マヌエル・アグヘータ
 

3月7日にヘレス・フェスティバルも終了。沢山の公演があった中、特筆すべきはマヌエル・アグヘータの公演でしょう。フェスティバル事務局が主催した公演ではないですが、思い起こせば一番心に刺さっている時間だったと言えます。
開演予定は午前1時。少し前に到着したが、まだ前の公演をやっていて入場できる気配はない。並んでいるのか並んでいないのか判別がつかない状態で、沢山の人たちがマヌエル・アグヘータの公演を心待ちにしている。さすがスペイン人、あちらこちらでお喋りに花を咲かせ、飲み物や煙草を片手に賑やかに待つ。そんな中、マヌエル・アグヘータが会場に到着した。すると待っている人たちが一同にマヌエルを見る。マヌエルが何かを言うと、さっきまで賑やかだったスペイン人達が水を打ったように静かになった。息を詰めてマヌエルを見る人達。ギタリストや親戚たちと共にマヌエルが会場の中に入ると、スペイン人達は息を吹き返したかのように喋り始める。とてつもない緊張感。
2時15分過ぎにようやく開場。待ちきれない人たちが、押せや押せやの大騒ぎで会場になだれ込む。会場はあっという間に満員。開演を今か今かと待つ。
ドミンゴ・ルビッチと共に舞台に上がると、ソレア、シギリージャ歌い始める。時に会場ににいる知り合いと話しながら、ゆっくりと急がずに時は流れる。会場はじわじわと熱くなる。マヌエルの歌には時に閃光が走り、強烈に惹き付ける。それでいてマヌエルは終始穏やかであった。サエタを歌うと最前列の知り合いに「どう?いいかな?」なんて聞いたりする。何度も歌われるソレア、シギリージャは時間を追うごとに深さを増す。
終わってみたら4時を回っていた。マヌエルの残像を瞼の裏に眩しく感じながら、深夜というより早朝の暗い街を帰路についた。